Turning PointInterview
鳥谷恵生氏
Interview2026.08.17

「生まれたこと自体に価値がある」自然と人の幸せを考え続ける、鳥谷恵生の原点

KT

Interviewee / 出演者

鳥谷恵生

Keisei Toriya

四万十市議会議員/風と水の大地株式会社 代表取締役

「ありがたい」

鳥谷恵生氏の口癖である。家族への感謝。友人への感謝。先生への感謝。取引先への感謝。そして、自然への感謝。

四万十市議会議員として地域に関わりながら、風と水の大地株式会社の代表取締役として一次産業にも携わる鳥谷氏。その活動は多岐にわたるが、話を聞いていると、すべての根底にあるのはひとつのシンプルな想いだった。

「自然を守りたい」。その原点は、小学校1年生の頃にまで遡る。

Profile

Keisei Toriya

鳥谷恵生(とりや けいせい)

高知県四万十市議会議員。風と水の大地株式会社 代表取締役。有機農業や減農薬栽培に関わる事業、生産者支援、販路開拓など一次産業の持続可能な仕組みづくりに取り組む。農業の現場、流通の現場、そして地域社会との接点を持ちながら、「自然を守り、人が幸せに暮らせる地域づくり」をテーマに活動している。

Turning Point

川辺で拾ったひとつのゴミ

鳥谷氏が自然に強い関心を持つようになったきっかけは、小学校1年生の時の出来事だった。魚を見るのが好きで、川を眺めていたある日、水辺に落ちていたゴミが目に入った。なんとなく拾って帰ると、母親がこう声をかけてくれた。「地球を守ったね」。その一言が嬉しかった。

翌日も拾った。その次の日も拾った。気づけば毎日の習慣になっていた。友人たちは面白がって、わざと目の前にゴミを落とすこともあったという。しかし鳥谷氏はそれを拾い続けた。

「誰が捨てても絶対に拾い切る、みたいな感じでしたね」

自然を守りたい。その想いは、今振り返ってもほとんど変わっていないという。

17歳の挫折が教えてくれたこと

中学・高校ではソフトテニスに打ち込んだ。結果を求め、自分を追い込み続けた。夜11時に寝て深夜2時に起床。勉強をして朝練へ向かう。授業を受け、再び部活動に励む。そんな生活を続けていた。冬には寝過ぎを防ぐため、屋外で寝袋を使って寝ていたこともあったという。努力は結果につながった。成績も上がり、テニスでも成果が出始めていた。しかしある時、突然身体が動かなくなる。当時は、それを受け止めることができなかった。

「テニスができない自分には価値がないと思っていました」

思い詰めた末、自ら命を絶とうとした。幸い命は助かった。そしてその後、人生観を大きく変える出来事が続く。担任の先生からかけられた言葉。「お前がお前らしくいる時が一番輝いている」「お前が信じる道を行きなさい」。さらに、友人たちも声をかけてくれた。「いつでも戻ってこい」。その時初めて、自分は多くの人に支えられて生きていることに気づいたという。

「生まれたことに対して価値はあるんだと」

それは自分だけではない。周囲の人たちも同じだ。成果や肩書きの前に、人には存在そのものの価値がある。この経験は、今も鳥谷氏の根底にある考え方になっている。

世界を見て、地域へ戻る

20歳の頃にはケニアを訪れ、マサイ族の村で井戸掘りに携わった。フェアトレードカフェの立ち上げにも関わったという。異なる文化や価値観に触れる中で、人と自然との関係について考える機会も増えた。その後は農業公社で有機農業を学び、自ら就農。自然と向き合う日々を送りながら、一次産業の現場で経験を重ねていった。しかし現場に立つほど、新たな課題も見えてくる。

どれだけ良い農産物を作っても、継続して販売できなければ経営は成り立たない。だからこそ鳥谷氏は、生産だけでなく流通の分野にも関わるようになった。農産物卸会社で販路開拓に携わったのも、その延長線上にある。

ケニア・マサイ族の村を訪れた鳥谷氏
20歳の頃に訪れたケニア。マサイ族の村で井戸掘りに携わり、人と自然との関係を見つめ直した。

「出口」をつくるという発想

今回のインタビューで印象的だったのは、「出口」という言葉だった。鳥谷氏は何度か、生産と同じくらい販路が重要だと語っている。

「売り先がなければ続かないんです」

「新しく農業を始める人がいても、販売先がなければ継続できない」。現在取り組んでいる米粉事業も、その考え方につながっている。減農薬や有機栽培で育てられた米を活用し、米粉麺として新たな価値を生み出す。生産者だけでなく、飲食店や販売先とも連携しながら循環をつくろうとしている。農業というと「どう作るか」に目が向きがちだ。しかし鳥谷氏の関心は、「どう続けられるか」に向いているように感じられた。

現場と地域、その両方に関わる

現在は四万十市議会議員としても活動している。今回の取材で政治について多く語られたわけではない。ただ、農業や地域の話を聞いていると、一つひとつの課題を様々な角度から見ようとしていることが伝わってくる。生産者不足。自然環境の変化。担い手の減少。地域経済の課題。そうしたテーマは、一人の力だけで解決できるものではない。

「僕一人じゃなくて、いろんな人と協働、協業、コラボしながらできたらいい」

企業同士の連携。生産者同士の連携。行政との連携。クリエイターや発信者との連携。人の話になると、鳥谷氏の表情は少し柔らかくなる。そこに、鳥谷恵生氏の「らしさ」があるように思えた。

一次産業の未来へ

取材の中で、特に熱量を感じたのは一次産業の未来について語る場面だった。生産者は確実に減っている。人口減少以上のスピードで担い手が減る地域も少なくない。だからこそ鳥谷氏は、農業や林業の魅力をもっと伝えていく必要があると考えている。

「一次産業っておもしろいよねって発信していきたい」

その言葉には危機感だけでなく、期待も感じられた。今後は米粉の普及促進に加え、林業など周辺分野との連携にも関心を持っているという。様々な企業との協業も視野に入れながら、自然環境と地域社会の未来を考え続けている。

稲田に立つ鳥谷氏
自然環境と地域社会の未来を見据え、一次産業の持続可能な仕組みづくりに取り組む。

人生は一度きり

若い世代へのメッセージを尋ねた。返ってきた答えは、とても率直だった。

「人生一度きり。どうせ死ぬなら最高の人生にしよう」

17歳の頃、自ら命を絶とうとした経験を持つ人だからこそ、その言葉には独特の重みがある。自然を守りたい。人を大切にしたい。地域をより良くしたい。その想いは、小学校1年生の頃から変わっていない。変わったのは、その想いを実現するための方法だけなのかもしれない。

Editor's Note

編集後記

取材前は、農業経営者であり市議会議員でもある鳥谷氏を、「二つの顔を持つ人物」として捉えていた。しかし実際に話を聞いてみると、その印象は少し変わった。

事業の話をしていても、政治の話をしていても、最後には必ず人の話になる。家族、先生、友人、生産者、取引先、地域の人たち。どの話題にも「ありがたい」という言葉が自然に出てくる。おそらく鳥谷氏は、人に支えられた経験を忘れない人なのだろう。だからこそ自然だけでなく、人の幸せも同じように大切にしようとする。

取材後に残ったのは、肩書きの多さではなかった。「人と自然を大切にする仕事をつくりたい」——17歳の時に抱いたその想いを、今も変わらず追い続けている人だ。